小さいときに大長編ドラえもんを読んでて
「のび太と鉄人兵団」は、がっかりした記憶があります。
過去の作品には、夏休みのワクワク感だったり、冒険に出る期待感みたいなものがあったのですが
この作品には、そういったものを感じられなかったからです。
物語序盤では、スネ夫がミクロスという小型ロボット(当初はラジコンロボ)を
持って遊ぶ楽しさが描かれていたり、
それに嫉妬するのび太は、巨大ロボットのザンダクロスを自分のものにできて、
しかも特撮映画さながら街中で自由に動かせる楽しさを描いています。
ロボットものが好きな人は、このような描写も楽しいのでしょうか?
私は、よく伝わらなかったです。
鏡面世界 誰にも注意されず自分の好きなことができる世界
そして、今作は大長編で初めて異世界へ冒険に行かなかった作品です。
今作の舞台の鏡面世界(鏡の中の世界)は、入った者以外は生き物がいない世界で、
空間は自分たちが住んでいる世界と左右逆になるという世界です。
異世界といえば異世界ですが、行ったことがない場所に行くような楽しさはありません。
前作の「のび太の宇宙小戦争」では、
スモールライトで小人になったことでできる楽しさが描かれていました。
今作の鏡面世界での楽しみは、無人化したために
全ての物が自分の物にできて、自分の思いのままに使えることです。
晩御飯は、周りの住民に気にすることなく、バーベキュー。
そして、子どもはできない夜遊び。
のび太は玩具屋からラジコンを、スネ夫は本屋から好きな本を、ジャイアンはケーキ屋から好きなケーキを、
それぞれが好きな物を好きなだけ持って来て、楽しんでいます。
就寝は、ジャイアンは念願のベットで寝ています。
小学生が楽しむ範囲を出ていないので、微笑ましくはあるんですが
なんだか盗んだもので楽しんでるような描写で、あまり楽しさを共感できなかったです。
ロボット作品の遍歴
「のび太と鉄人兵団」はロボットをテーマに描かれています。
ロボットものは手塚先生の影響から、世界をみても日本作品の独断場と言ってもいいと思います。
そこで、今作より以前の日本のロボット作品の代表作を選定してみました。
1949年 メトロポリス(手塚治虫)
1952年 鉄腕アトム(手塚治虫)
1956年 鉄人28号(横山光輝)
1964年 サイボーグ009(石ノ森章太郎)
1972年 マジンガーZ(永井豪)
1974年 ゲッターロボ(永井豪・石川賢)
1976年 超電磁ロボ コン・バトラーV(長浜忠夫)
1979年 機動戦士ガンダム(富野喜幸)
1982年 超時空要塞マクロス(スタジオぬえ)
1985年 大長編ドラえもん「のび太と鉄人兵団」
これらの作品群を二つの系列に分けると
①人型ロボット(アンドロイド、サイボーグ)
メトロポリス⇒鉄腕アトム⇒サイボーグ009
②巨大ロボット
鉄人28号⇒マジンガーZ⇒ガンダム
の二系列に分かれます。
①は物語の主役はロボットで、ロボットも人間と同じように心があり、
人権問題であったり、ロボットと人間との重層性(格差問題)を描いています。
表面的にはロボットの凄さを描いたエンターテイメントですが、
テーマは、命、人権、差別、奴隷、などの重い問題を扱っています。
②はロボットは人間が使う兵器という範囲をでていません。
物語の主役は人間で、ロボットは人間が引き起こす戦争の兵器として描かれます。
ロボットは、ロケット、飛行機、戦車、爆弾などの兵器の代替えで、
どれだけカッコ良く、優れた兵器であるかが存在意義となってきます。
藤子F不二雄先生は、手塚先生の影響を物凄く受けている漫画家なので
「のび太と鉄人兵団」は、やはり①の系列に沿って描いています。
アメリカでの奴隷の歴史
今作は、ロボットである異星人が人間を奴隷とするために地球にやってきます。
異星人が人間にこう言うシーンがあります。
「人間みたいな下等生物が支配者のために働くのはありまえじゃない。」と。
これは、近代以前のヨーロッパ人の思考とまったく同じで
実際に白人がアメリカ、アジア、オーストラリア、アフリカの原住民に行ってきた歴史です。
アメリカ人(イギリスを中心としたヨーロッパ人)が行った奴隷化について話しますと
白人はアメリカ大陸を発見し、金銀財宝が先人たちに既に強奪されたのを知ると
新大陸で、綿花、タバコなどを生産、輸出するという金儲けを考えました。
しかし、当時、農作業用の機械はなく、それに代わる大量の人間が必要だったのです。
白人は、生産量を上げるために、日が昇ってから沈むまで機械(奴隷)のように働ける労働力を探します。
最初に奴隷化されたのは、原住民であるアメリカンインディアンでした。
しかし、アメリカンインディアンは誇り高く、奴隷のような隷属的な扱いに反抗します。
そして、アメリカンインディアンは大量虐殺されていきます。
次に奴隷化されたのは、アイルランド人などの貧しい白人たちでしたが、数が足りない。
そして、アフリカ大陸から大量に黒人が奴隷として送り込まれていくことになりました。
この奴隷貿易は儲かったため、制度化されます。
1000万人以上の黒人が奴隷としてアメリカに送り込まれたようです。
この奴隷制度の成果で、アメリカは長らく利益を保ち、発展します。
地球制服(=植民地化)政策
1853年、アメリカは軍艦4隻で日本にやってきます。
それは、日本を開国させようする軍事力を背景とした強硬的な要求のためでした。
このままでは日本国民も、
他の植民地化された国のように奴隷となるか、大量虐殺されてしまいます。
危機感を持った幕末の志士たちは、
その後、明治維新を成し遂げ、列強の侵略に備えることになります。
その頃、ヨーロッパ列強では奴隷解放が実施され、
1862年、アメリカも他の列強国に遅ればせながら「奴隷解放」を宣言します。
「のび太と鉄人兵団」は、異星人が地球を征服しにやってくる話です。
その侵略の理由とは、「異星人の祖国であるメカトピアには奴隷制があったが
近代になって奴隷制度が廃止になったため
遠い星から新たな奴隷を連れてくることにした。」というものでした。
その対象が地球人ということです。
つまり、地球とは19世紀末の日本を指していて、メカトピアとはアメリカのことです。
なので、幕末以降の歴史を知っている日本人がこれを読めば、物語に入りやすいはずです。
個人的な感想では、もう少し19世紀末の日本の状況をオマージュすれば、より危機感が募ったのでは?と思います。
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