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「電波の城」5巻(ネタバレ)感想~笑わせる?笑われる?お笑い番組の変遷~

漫画評

電波の城5巻のあらすじとテーマ

「電波の城」5巻は「天宮詩織vs角舘ちず子」の決着がつきます。
角舘ちず子の企画で、隅田川の吾妻橋から勝どき橋までをカヤックで生放送時間内に辿り着けるか?
という「カッパの川流れ」ゲームです。
当初は、天宮詩織のみが参戦する予定でしたが、角舘ちず子も参戦することになります。

一方、谷口ハジメは、隅田川でのカッパの川流れ対決のイベントと時間を並行して
角舘ちず子が番組内で暴君として君臨できる理由と若手アナウンサーいじめを行う理由を
突き止めるために、孤軍奮闘することになります。
谷口ハジメがその二つの理由を突き止めることに成功したのは、
カッパの川流れでの詩織vs角舘ちず子とのクライマックスの最中でした。

読者は、角舘ちず子の過去と詩織vs角舘ちず子のとちらが勝ったのか、
同時に知ることになるため、盛り上がります。

5巻で印象に残ったのは、
「テレビの本質とは人間の予測不能の行動を追って見せるコト!」
と言った天才ディレクター大場恒太朗の台詞でした。
そしてそれは、プッツンブラザーズという「オレたちひょうきん族」を
モデルとした番組内で角舘ちず子に実践されます。

角舘ちず子は、アナウンサー新人時代に番組内でドッキリを仕掛けられ、
世間に恥をさらすことになりながらも高視聴率に貢献します。
自分との格の違いを認識させるために、今度はそれを詩織に仕掛けることにしたのです。
詩織は、生放送中の予測不能という状況を見事に対応しきりました。

5巻で登場する
「プッツンブラザーズ」は、フジテレビの伝説的お笑い番組「オレたちひょうきん族」をモデルに、
「大場恒太朗」は、オレたちひょうきん族のディレクターだった「三宅恵介」をモデルにしていることが分かります。
「マダム・サザエ」は、ひょうきん族で明石家さんまさんが演じたブラックデビルのメイクに似てます。

’80年代 フジテレビ黄金時代の代表番組「オレたちひょうきん族」!

電波の城がモデルにしていることから分かるように’80年代のフジテレビは、
「楽しくなければテレビじゃない」をスローガンに
「オレたちひょうきん族」や「笑っていいとも」などで
アドリブ(=人間の予測不能の行動)を取り入れて面白さを演出していきました。

アドリブ芸は’70年代の人気お笑い番組「欽ドン!」で既に実践されていましたが
’70年代は、綿密に計算されたコント番組「8時だョ!全員集合」の黄金時代で
「欽ドン!」は、この人気を超えることはできませんでした。
’80年代になって、その人気を超えたのが「オレたちひょうきん族」です。
「オレたちひょうきん族」の人気に押されて、「8時だョ!全員集合」は’85年に打ち切りになってしまいます。
(後に加藤茶さんが、さんまさん、たけしさんのようなアドリブはできず、人気が下火になっていってしまったことを語っています。)

それまでのお笑いは、漫才にしろコントにしろ、綿密に計算されたものが主体でした。
しかし、「オレたちひょうきん族」は、過度のアドリブ、芸人のプライベート暴露など
芸(技術)ではなく、キャラクター(芸人の個性)を重視した笑いに変えていきます。
「笑わせる」のではなく、「笑われる」笑いというものです。
こうした笑いに嫌悪感を覚える人は、今もいると思いますが、「笑われる」笑いは支持され、
以降のお笑い番組は「オレたちひょうきん族」をフォーマットに企画されていきます。

今巻で、大場恒太朗が言っていたように、
「大衆は、技術のある優等生(強者)よりも強者にいじられボケをかます道化のキャラクターの方が好きだ」
ということなのでしょう。

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’90年代 お笑いはアドリブからトークへ!他にも様々な新しいお笑いスタイルが誕生!

「オレたちひょうきん族」に出ていた芸人は、大物芸人としてお笑い界を席巻していくことになります。
ビートたけしさん、明石家さんまさん、島田紳助さん、山田邦子さん、片岡鶴太郎さん、渡辺正行さん、ラサール石井さん、たちです。
しかし、この中で21世紀になっても大物として君臨し続けたのは、ビートたけしさん、明石家さんまさん、島田紳助さん、の三人に限られます。
’80年代に「8時だョ!全員集合」⇒「オレたちひょうきん族」へ人気の交代劇があったように
’90年代に入ると、ひょうきん族の笑いは古くなっていきます。

ビートたけしのTVタックル、明石家さんまの恋のから騒ぎ、などトーク主体の番組が人気になり
トークが面白くない芸人は生き残りが難しくなっていきます。
ひょうきん族の成功で、お笑い番組はバラエティ番組となり、
ジャンルを超えて需要が増えたために、いろんなタイプの笑いに対応する必要がありました。
いろんなタイプの笑いの基本がトークで、アドリブの次に必要なスキルはトーク力だったわけです。

「とんねるずのみなさんのおかげです」はひょうきん族と同じようなコンセプトでしたが
(コント中の内輪ネタ、仮面ノリダーというヒーローもののコント、中村江里子アナがレギュラーなど。)
その人気は、宮沢りえさん、牧瀬里穂さん、観月ありささん、という当時、人気絶頂のアイドル3Mを準レギュラーにするなど
彼女たちゲストの普段は観れない魅力を引き出す部分にあったと思います。
それでも’90年代後半には人気の陰りが見え始め、
’97年にコント中心の構成からトーク中心の新・食わず嫌い王決定戦という企画に変更して人気を維持していきます。

もちろん’90年代、他にも「ダウンタウンのごっつええ感じ」のようにコント中心の人気番組もありました。
しかし、その笑いは今までのものとは違ったものだったと思います。
ひょうきん族は、8時だョ!全員集合のように誰もが分かる笑いは、
6割に抑えて、あとの4割は分かる人だけが笑えるような笑いを入れていったそうです。
その4割の中に腹を抱えて笑えるような笑いがあると三宅恵介さんは語っています。
ごっつええ感じは、ゴールデンタイムという枠内で、分かる人だけが笑える笑いの割合をさらに増やしていきます。

つまりダウンタウンは、分かる人だけが笑える笑いに特化することで爆笑を連続させることを可能にしました。
しかし、それは弱者(ダウンタウンの笑いが分からない人)を切り捨て、強者を選択することに加速をつける行為でもありました。
’90年代はバブル経済がはじけ、とにかく頑張れば生き残れたという時代が終わりを告げ、能力至上主義の時代に入ります。
’90年代、ダウンタウンは特に勝ち組に強烈な支持を得ました。
’00年代に入るとまた違ったお笑いが支持を得ることになりますが・・・。

このように’90年代にも’80年代と同じような世代交代があったわけですが
電波の城5巻は、’90年代ではなく、’80年代のテレビ業界を引き合いにだしています。
5巻は2007年に発行されているので、少し時代遅れな感じがしてしまうところが残念なところです。

電波の城(5) (ビッグコミックス)


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